聖光学院中学校高等学校

2015.8 校長メッセージ「蝉の声」

蝉の声

 山手駅からの坂道を登り、右側の雑木林で鳴く蝉の声を聞くのは毎年夏休みも終わりかけたころである。教員になってから夏休みの前半のほとんどは、キャンプ場で過ごす日々を送ってきた。二十代から三十代前半までは、山梨県北杜市増富温泉からさらに奥へ入った金山平だった。毎夏約三週間そこをベースに、四日ごとに入れ替わる高校一年生のグループと金峰山、瑞牆山に登っていた。その後は、福島県猪苗代湖畔にあるキャンプ場、最近は東日本大震災のあとに新しく設置した長野斑尾高原のキャンプ場という具合に、ほとんど横浜にいない日々を送っている。
 今朝も登校してみると、例年のごとく、去りゆく夏の日を惜しむように蝉たちが鳴いている。この雑木林は中国人のための外国人墓地なので、聖光へ入学した四十八年前からその様相は全く変わっていない。もちろん蝉の鳴く音色も同じである。ささやかではあるが、この懐かしさがあることが多分学校という場所には大切なのだと思う。最近では、こうしたほんの小さな思い出をたくさん持つことが、人を優しく成長させることにつながっていくと思うようになってきた。
 一方で、最近の聖光生は、小さな思い出どころかずいぶんと大きなチャレンジをするようになってきた。
 中学水泳部はメドレー・リレーで神奈川県大会を勝ち抜いて、秋田県で開催された全国中学校水泳大会に初めて出場した。高校一年生の生徒も、個人ではあるがこの秋にゴルフで和歌山国体に出場する。レベルが違いすぎて選手たちは苦労しているが、高校サッカー部も県ではBリーグで頑張っている。施設も良くなったことでもあるし、これからはスポーツでも名を馳せようかと色気が出てしまう。
 将棋では全国大会で団体戦三位になり、個人戦では中学三年の生徒が優勝した。囲碁も全国大会出場を果たした。
 全国物理コンテストでは、高校三年の生徒が金賞を受賞した。変わったところでは、ボストンで行われたポケモンの世界大会にも、日本での大会を勝ち抜いた高校一年の生徒が出場している。これは二年連続のことだ。
 バンコクでのテロがあったので多少心配ではあるが、三名の生徒をタイのボランティア・キャンプに派遣している。そして今年も二回に分けて、東北の被災地にボランティアの生徒を出している。私自身はたまたまあとから他校の校長先生からお聞きしたのだが、昨年のボランティアに参加した三名の生徒が、今年は個人的に参加していたとのことであった。このような話を聞くと、種まきはしておくものだと実感する。
 そして二学期からは高校二年の生徒三名が留学することになる。それに続いて、すでに高校一年の生徒二名、中学三年の生徒一名が留学生試験に受かっており、次年度には海外へと飛び立っていく。
 時代の変化もあるのだろうが、自分たちのころとは比較できないくらい生徒たちの活動範囲は広がっている。そこで彼らが大きな経験知を修得するであろうと期待している。
 また急速に変化する情報化社会の中においては、職業一つをとっても、将来には今ある職種の相当数がなくなってしまうであろうといわれている。それだけに『解のない問い』に対応できる人物となることも必要ではないだろうか。
 そうした観点からは、中高生の時代に広い分野に積極的に出ていくことは欠かすことのできない体験であると思う。
 ふと、「蝉脱」という言葉を想い起こした。