聖光学院中学校高等学校

国語

本校の国語教育の最大の特徴は,6年間を通して,教科書よりもむしろ教員の手作り教材が中心になるということです。これは,学校単位で作られているものではなく,担当教員それぞれが,その年ごとに工夫をこらして教材を選定したものです。印刷室に印刷専門の職員がいるので,一般的なプリントはもちろん,この資料のような冊子形式の教材も迅速に作成できます。

また,中高一貫の利点を生かし,「読む・書く・話す・聞く」という言語活動全体を,バランス良く高いレベルにまで伸ばしていけるように,多彩なプログラムが組まれています。

【前期】(中学1年・2年)

教科書は光村図書のものを使用していますが,より幅広い分野の文章に触れていくために,中学1年生の段階から独自教材による学習を展開します。一人一人の多様性を大切にしながら,クラスの中で,「なんとなく読む」というレベルから「意識的に,論理的に読む」というレベルへと導いていこうと考えています。ともするとスピード本位で読解中心になりがちな中学入試国語とは違い,「読む・書く・話す・聞く」という言語活動全体のバランスを取りながら,じっくりと言葉に向き合う機会を作るように心がけています。

また,現在,朝のホームルームにおいて「朝読書」を励行しています。必ず本を開き,短時間でも集中する。その繰り返しが,日々の授業においても反映されることを願っています。生徒自身,自分が好きな本を読めるということもあって,今まで以上に「読む」機会が増えているようです。また,自分がどのような本を読み,何冊読んだかを確認できるように「読書記録」を残したりもしています。

さらに,前期の学習として20年ほど前から取り組んでいる「群読」(グループによる朗読)も,黙読による読解中心の受験国語から脱皮をはかり,じっくりと言葉に向き合う機会を作るためのプログラムの一つです。劇団民芸の俳優西川明先生を特別講師にお招きして「群読」に取り組みはじめたのは,1990年のことです。「体を動かし,大きな声で」というスローガンのもと,宮沢賢治の「雨ニモマケズ」,佐藤春夫の「秋刀魚の歌」,中原中也の「汚れっちまった悲しみに」などの近代詩から,『平家物語』のような古文や「春望」のような漢詩,また日本国憲法前文や流行歌の歌詞まで,生徒たちはさまざまなテクストにチャレンジしてきました。人前に自分の体をさらし,ときにはパントマイムも交えて行う「群読」は,プレゼンテーション能力を養う上で効果的な学習です。また,リズムやイントネーションや声量,どこを何人の生徒で読むかなど,どういう読み方が効果的かを考える作業は,テクストの徹底的な読解作業ぬきにはできません。「群読」することを通じて,「読む・書く・話す・聞く」のバランスが取れた,総合的な国語力の向上がはかれると言ってもよいでしょう。近年は,劇団アクト・ヤマナル代表の山下光治先生と本校の中学1年・2年担当教諭が協力し,発声練習から発表まで,それぞれ約3週間にわたり「群読」の授業を行っています。(なお,山下光治先生には中2選択芸術講座「演劇」も担当していただいています。)

中学2年生では「文章表現」を週1時間学習しています。感想文や作文ではなく,論理的文章の作り方を学びます。たとえば,あるテーマについて,まず思いついたことを列挙します。それから自分の意見の根拠となるものを取捨選択し,「過去の原因,現在の状況や課題,未来の展望」という軸に沿って自分の意見とその根拠を整理し直します。ここからさらに「自分の意見に対する反論やその根拠」を予想し,「具体的な対応策」を考えまとめるといったトレーニングを行っています。ただ単に反対・賛成を述べるのではなく,より広い視野に立ったうえでの分析力や持論に偏りすぎない判断力を,中学生の段階で育成しようというのがこの授業でのねらいです。

またパソコンを用いて,「里山の自然の活用」(環境問題)や「ドイツのおもちゃ売り場から」(日本とドイツの教育比較)など,新聞記事やコラムといった様々な資料から,自分の意見を要約・構成する練習も行っています。

古典分野への導入としては,中学1年で物語性の高いものを中心に読み,古文に親しむことからはじめ,中学2年で『小倉百人一首』や『今昔物語集』などを学習します。文語文法については基本的な事項を確認する程度にとどめ,音声言語を重視しながら古文に親しむことを主眼に授業を展開しています。また,漢文についても基礎として故事成語などを学習します。

漢字の習得については,中学1年から漢字能力検定試験へのチャレンジをはじめます。自分の実力に合わせ,希望する級を受験しますので,中学1年で2級(高校卒業レベル)に合格する生徒もいます。

【中期】(中学3年・高校1年)

現代文は,山崎正和の『日本文化と個人主義』のような重厚な内容の古典的な評論から,進化生物学的な観点で人間の男女関係を考察した長谷川眞理子の『オスの戦略 メスの戦略』のような刺激的な文章まで,多彩な教材が用意されます。また,内田樹の『日本辺境論』や村上春樹の『壁と卵』などのように,その時々の評判になっている文章を教材化することも珍しくありません。生徒が興味や関心を抱き,しかも広い意味での教養が身につくような教材を選び,じっくりと時間をかけて読んでいきます。

また,読書発表として「要約」と「自分の考え」を発表させることもあります。発表学習を通して,相手に考えを伝える経験を積み,論理的に文章を組み立てる大切さを学びます。また,発表を聞くことで,疑問点を見つける力,質問をする力を養い,対話を通して高め合うことの有効性と喜びを体験します。

古典分野では,前期の学習をふまえ,古文は『宇治拾遺物語』などを中心とする説話作品や『平家物語』『方丈記』『徒然草』などの中世文学,『伊勢物語』や『大鏡』といった中古文学を織りまぜながら,また漢文は平易な寓話や伝記にはじまって『十八史略』や『史記』といった史伝などを読みながら,文語文法や漢文の句法などについて本格的な学習が始まります。文法的な事項をしっかりおさえることが,深く豊かに文章を読む上でいかに大切なことであるかを,実践的に学習していきます。また,音声言語を重視するという考え方に基づき,『小倉百人一首』や有名な古文の冒頭部分などを暗誦させたりもします。また,百人一首学習の一環として,百人一首大会(クラス対抗源平戦・競技かるた形式の個人戦)も開催しています。さらに現代文同様,こま切れのテキストばかりでなく,高校1年で『方丈記』の通読にチャレンジした年もあります。

中高一貫校のメリットが最も発揮されるこの時期には,以上の他にもさまざまな学習が展開されます。たとえば,臓器移植とか死刑制度などの現代社会をめぐる重要な問題を取り上げて行うディベートや,哲学書や小説などを取り上げて調べ学習をして発表するグループ研究,短編小説や詩歌の創作などがその一例です。高校生用の教科書は,筑摩書房のものを使用していますが,手作り教材が中心になるという点では中学時代と同様です。

【後期】(高校2年・3年)

高校2年以降は,現代文・古典とも,大学受験をにらんだ問題演習をすることが多くなります。夏期講習などでも,センター試験対策や国立2次の記述対策など,多数の選択制講座が組まれます。ただし,大学入試が最終的な目的ではありませんから,じっくり読み思索を深めるのに適した文章が出題されているものを選択し,通常の国語の授業と組み合わせながら,より高いレベルの国語力,より豊かな教養が身につくように学習を進めていきます。センター試験の過去問を取り上げるときも,問題演習だけで終わらせず,関連するテーマの文章を読んだり,断片的に取り上げられた小説の全文を読んだりすることも積極的に行っていきます。たとえば,江國香織の『デューク』や吉本ばななの『TSUGUMI』などは,センター試験の問題に取り組ませた上で,原作をじっくり鑑賞させたりもします。さらに,場合によっては,出題者のどのような意図のもとで「文学」が入試問題に仕立てられているかというような側面にも踏み込んで学習を進めます。高校2・3年の段階では,文章を的確に読み取ることだけではなく,より批判的・批評的に表現に関わることができるかどうかがとても重要だと考えるからです。たとえ新聞や辞書や教科書などに書いてあることでも,そのまま鵜呑みにするのではなく,発信者が誰であるか,どのような語り口であるかというような表現の成り立ちに目を注ぎ,考えながら受けとめることのできるような生徒に育てていきたいと願っています。現代文の授業で中島敦の『山月記』を読み,その下敷きとなった伝奇小説『人虎伝』を漢文の授業で読ませながら,比較文学的に考察するというような,科目の垣根を超えた授業が行われることもあります。

また,小論文対策をかねて,より高度な内容の文章を読み,分析や批評を行うセッション形式の授業も試みています。国民国家,ジェンダー,メディア・リテラシー,身体,近代科学,ゲーム理論など,さまざまな問題を論じた文章を読み,それについて考え,討議し,発表し,意見交換をする授業です。大学においてもそれ以降においても,「受信」するだけではなく,「発信」する力が求められていると考えるからです。このような過程を経て,小論文指導においても,「読む・書く・話す・聞く」という国語の力を総合的に高めていくようにつとめています。